「円安相場」はピークアウトしたのか? 外為オンライン・佐藤正和氏

為替

サーチナ

2022/10/31 13:27

 外為市場は、日本政府による断続的な為替介入によって、円安方向への一方的なトレンドから、神経質で細かい動きに終始する相場に変わりつつある。毎日のように発表される様々な経済統計の結果によって大きく変動し、気の抜けない相場展開が続いている。そんな中で、相変わらず日銀は金融緩和を継続しているが、今後の為替市場はどこに向かうのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに11月相場の見通しを伺った。

超円安の動きが、ここに来て足踏みしている背景には何があるのでしょうか?

 様々な景気指標が発表される中で、景気減速を示唆する指標が出てくる割合が徐々に高くなってきています。例えば、住宅市場では9月の一戸建て新築住宅販売件数が8月の「68.5万戸」から、9月は「60.3万戸」へと減少に転じました。また、10月のコンファレンスボードが発表した消費者信頼感指数は「102.5」に低下し、市場予想の「105.9」を大きく下回りました。

 こうした指標の影響で、一時4.33%まで上昇した米国の長期金利は、ここにきて4.0%前後のレベルにまで下落してきました。日本との金利差が縮小したことで、円相場も147円前後で動いています。長期金利の下落によって、米国の株式市場も下げ相場に一服感が広がっています。当面、政策金利の引き上げは続くものの、そのペースについては、中央銀行に当たる「FRB(米連邦準備制度理事会)」が議論を開始するのではないか……、といった安心感が広がっているようです。

 加えて、日銀の覆面介入と思われる動きが断続的に起きており、投資家も一方的な円売りに動きづらい状況です。そんな市場の動きに戸惑っている投資家も多いと思います。

今後の為替市場のポイントになるのは何でしょうか?

 まずはFRBによるFOMC(米連邦公開市場委員会)の会合が11月1日~2日にかけて開催されますが、どの程度の利上げ幅になるのか……。そして次の12月のFOMC会合で、どの程度の利上げになるのか。それを示唆する発言の有無がポイントになると思われます。

 11月のFOMCでは0.75%の金利引き上げが行われるものと思われますが、問題は次回12月のFOMCでも同じく0.75%の上昇になるのか、それとも0.5%でとどまるのか……。ここが、大きなポイントになると思われます。

 ECB(欧州中央銀行)は、10月27日に行われたECB理事会で、0.75%の金利引上げを発表しましたが、一方でカナダの中央銀行は10月26日の政策金利発表では0.5%の上昇に押さえました。金利の上昇幅が、今後はひとつのポイントになってくると思われます。

今後もドル高は続くのでしょうか?

 最近の傾向としては、雇用統計やCPI (消費者物価指数)といった重要な景気指標以外の数字でも、市場が敏感に反応する現象が起きています。景気の行方が金融マーケットに大きな影響を与えている証拠であり、景気指標はこまめにチェックしたほうがよさそうです。

 とりあえず、11月4日に発表される10月の米雇用統計の非農業部門雇用者数は重要な指数であり、20万人の増加と予想されています。9月が26.3万人でしたから、やや減少傾向=景気減速にあるといえます。ちなみに失業率も9月は3.5%、10月は3.6%と予想されています。ここでも、景気の減速傾向が見られます。

 FRBの役割とは、物価の安定と同時に雇用の安定も担っているわけですが、最近は物価対策だけが先行している傾向があります。こうした点について、米上院議会の「銀行住宅都市問題委員会」のブラウン委員長が、パウエルFRB議長に書簡を送って、「完全雇用を確保する責任を見失ってはならない」と訴え、雇用安定の重要性を指摘したと報道されています。急激な金融引き締めに対して、政府だけでなく議会からの圧力も高まっていることを示唆しています。中期的に見ればやや潮目が変わりつつあるのかもしれません。

日銀は今後も金融緩和を続けるのでしょうか。

 10月28日に行われた日銀の金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見では、相変わらず大規模な金融緩和を続けると明言しました。記者会見中から円安はずるすると進行し、147円台に戻りました。

 日本の消費者物価指数(CPI)は、同日発表された東京都区部の生鮮商品を除いた10月のコアCPIが、前年同月比で3.4%上昇するなど33年ぶりの上昇となりました。消費税率の影響を除くと1982年6月以来の40年4ヶ月ぶりの高い水準になるそうです。数十年ぶりの高い物価上昇があっても、日銀はあくまでも金融緩和を続けるということでしょう。

 現在は、政府による為替介入によって、一方的な円安が食い止められているわけですが、問題は政府による為替介入がいつまで続くかです。円安を食い止める為替介入の場合、外貨を売って円を買うことになるため、外貨準備を取り崩す必要があります。日本の場合、為替介入に使いやすい預金は19兆円程度と言われています。無制限に介入できると言うわけではなさそうですが、中央銀行同士のスワップを使って借金をすれば、さらなる介入資金が調達できるため、「介入はもうないだろう」といった思い込みで投資するのはリスクがあります。警戒は怠らないことです。

10月の予想レンジを教えてください。

 米国のGDPは3四半期ぶりにプラス成長となりましたが、多くのエコノミストは「米経済は今後1年以内にリセッション入りする」との見方を維持しているようです。FOMC会合で大幅利上げの是非を議論するといった感触が根強く、そうした思惑が米国の長期金利の低下につながっているようです。そうした点を踏まえると、11月の予想レンジは次のように想定されます。

●ドル円……1ドル=143円-152円

●ユーロ円……1ユーロ=142円-150円

●ユーロドル……1ユーロ=0.96ドル-1.02ドル 

●英国ポンド円……1ポンド=165円-175円 

●豪ドル円……1豪ドル=91円-97円

11月の為替相場で注意すべきことは?

 ここ数ヶ月の為替相場は、ボラティリティ(変動幅)の大きなものとなりました。1日に4円も動くような滅多にない変動幅のなかで、冷静さを維持するのは難しいかもしれませんが、冷静さを保つことも投資の世界では大切です。

 ドル円が152円手前から145円前半まで売られたこともあり「ドルロング(ドル買い)」のポジションで苦しんでいる人が多いかもしれません。いずれまた円安のチャンスは巡ってくると考えて、チャンスを待つのもひとつの方法です。発表される景気指標を細かくチェックし、チャートの動きなどをこまめにチェックすることが大切です。

 一方的なトレンドへの思い込みをせずに、ポジションを小さくしながら市場をよく見てトレードしていくことが大切です。

(文責:サーチナ)

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