植田日銀新体制で円安はさらに進むのか? 外為オンライン・佐藤正和氏

為替

サーチナ

2023/3/2 9:23

 3月は、黒田日本銀行総裁が最後の金融政策決定会合を迎えることになり、日銀の金融政策の方向性が注目されている。そんな中で、次期日銀総裁候補に指名されている植田和男氏の衆議院、参議院での所信聴取にも大きな関心が集まっている。一方、年内にも利下げ開始かと思われていた米国の金融政策が、ここに来て景気の好調さを示す指標が連発し、ドル高のトレンドが再び戻りつつある。好景気を示す数字が出ると株が下落し、ドルが買われるイレギュラーな現象が起きている。3月の為替市場はどんなトレンドになるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに為替相場の見通しを伺った。

予想された米国の利上げペースが大きく外れていますが……?

 2月に発表された米国の景気指標の大半が予想に反して、米国経済の好調さを裏付ける結果が続くことになりました。先陣を切ったのは、2月3日に発表された雇用統計で、非農業部門雇用者数は18万5000人増の予想のところ51万7000人増という大きなサプライズになりました。その後、発表されたCPI(消費者物価指数)やPCE(個人消費支出)価格指数でも、予想を大きく上回る数値が発表され、マーケットは米国経済の力強さを知ることになりました。

 米国経済の景気が減速していないということは、まだインフレ圧力が残っており、9%台から6%台に下落してきたCPI(前年同月比)が、再び増加していくのではないかという懸念が拡大。利上げが続く観測から、為替市場ではドルが買われ、株式市場は下落することになりました。

 年初には、景気指標の悪化を示すデータが数多くみられ、インフレ懸念が急速にしぼんだことから、年内には利上げがストップし、場合によっては利下げもあるのではないかと予想されました。そんな見通しから、株式は買われ、ドルは売られる状況になりましたが、2月の景気指標の好転でインフレ収束との見通しが時期尚早と判断されたわけです。3月以降は、再度注意深く景気指標を観て、米中央銀行の「FRB(米連邦制度準備理事会)」がどの程度の利上げに踏み切ってくるのかを注意深く見る必要があります。

以前のように1ドル=150円台を狙う局面になるのでしょうか?

 3月21日-22日開催される「FOMC(米連邦公開市場委員会)」では利上げ幅が話し合われることになると思いますが、以前のように9%台のインフレ率が再現される可能性は低く、0.75%の利上げ幅というのは考えにくいと思います。ただ、0.25%で留まるのか、0.5%になるのかは、今後発表される3月10日の雇用統計などの結果次第だと思われます。

 今後、FRBがどこまで利上げを続けていくのか、いわゆる「ターミナルレート」は「5.5~5.75%」程度ではないかと予想されています。現在のFFレートは「4.75%」ですから、もうしばらくは利上げが続くと予想されます。

 そういう意味では、日本との金利差がさらに拡大するわけですから、ドル高円安にまた戻るような気がしますが、昨年10月に記録したドルの高値「151円94銭」から、今年1月のドルの安値までの下落幅を見ると、現在は「半値戻し」を狙う水準まで回復しています。レートでは「139円58銭」前後になります。1ドル=140円台の壁を超えるのは容易ではありませんが、これを超えて円安が進むようであれば、相場観の修正が必要になるかもしれません。

次期日銀総裁の植田氏の政策はどう考えればいいのでしょうか?

 3月9日-10日に行われる日銀の金融政策決定会合を最後に、黒田総裁から植田氏にバトンタッチされることが確実視されていますが、これまでの植田氏の発言内容などから見て、穏便に黒田総裁の路線を継承すると考えられています。急激な政策変更はリスクが高く、新総裁誕生後も時間をかけて現在のYCC(イールド・カーブ・コントロール)、量的緩和策の見直し、マイナス金利解除といったプロセスになると思います。

 植田氏はアベノミクスに対して「着実な成果が上がっている」と述べるなど一定の評価をしており、YCCに対しても「メリットが副作用を上回っている」と述べています。あくまでも、市場の急激な変化を回避しつつ独自の改革を進めていくものと思われます。

 一方、黒田総裁が最後の金融政策決定会合で「YCCの変更を行い、植田体制へのビッグプレゼントを行う」のではないかといったサプライズの噂もありますが、可能性は低いと思います。とはいえ、サプライズ好きの黒田総裁ですから一応警戒はしておいたほうがいいかもしれません。

3月の予想レンジを教えてください。

 当面は、米国の景気指標が引き続き好調な数字を続けていくのかどうかが大きなポイントになります。ただし、欧州など米国以外は引き続き、金利引き上げの可能性が高い状況です。3月16日に実施されるECB(欧州中央銀行)の理事会では利上げが予想されており、23日の英国・イングランド銀行の金融政策理事会でも、もう一段の利上げが予想されています。オーストラリア準備銀行の政策金利発表(3月7日)でも利上げがある可能性があります。

 米国の利上げも0.25%もしくは0.5%の利上げが予想されており、3月の為替相場もボラティリティは大きな相場になる可能性があります。3月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円……1ドル=132円-138円

●ユーロ円……1ユーロ=138円-147円

●ユーロドル……1ユーロ=1.03ドル-1.10ドル

●英国ポンド円……1ポンド=160円-167円

●豪ドル円……1豪ドル=89円-93円

こういう状況では、どんなトレードをするのがいいのでしょうか?

 現在の金融市場は「悪いニュースは良いニュース」という具合に通常の逆になっています。景気指標で悪い数字が出るとインフレ懸念が減退し、株式が買われて、債券金利は下落してドルも売られるパターンになります。ややこしい相場が続きますが、思い込みに走らずに柔軟に対応していく姿勢が大切かもしれません。

 雇用統計やCPI、PCEといった景気指標を注意深くチェックしながら、小さなポジションでこまめな利益確定を狙う……。そんなトレードも一つの方法です。

(文責:サーチナ)

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