<新興国eye>AMRO、カンボジアに年次協議ミッション―不動産不況に懸念

新興国

2024/6/14 8:43

 5月23日、ASEAN+3マクロ経済調査事務局(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office:AMRO)は、2024年5月2日-13日にカンボジアで実施した年次協議の結果を発表しました。AMROは、この地域の経済・金融の監視・分析を行うとともに、ASEAN10か国と日本、中国、韓国による外貨融通の取り決め「チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)」の実施を支援するために設立された国際機関です。

 カンボジアのGDP成長率については、2023年の5.0%から2024年5.6%、2025年5.9%と回復を続けると見ています。衣料品セクターの回復、非縫製製造業の輸出拡大、観光業の回復が、引き続き景気回復を後押しするとしています。しかし、回復の軌道は、特に不動産セクターの長期にわたる弱含みと信用力の低下というリスクにさらされていると指摘しています。

 物価上昇率は、ウクライナ危機等の影響による国際資源価格・食料価格の高騰を受けて2022年6月には7.8%まで上昇しました。その後は落ち着き、2023年には2.1%にまで下落し、2024年2.5%、2024年2.6%と安定的に推移すると見ています。

 対外収支については、経常収支(対GDP比)は、貿易赤字の大幅な縮小もあって2023年に1.3%の黒字に転じました。2024年0.6%、2025年0.1%の黒字となると予測しています。また、2023年の海外直接投資(FDI)流入額はGDPの9.3%と底堅く推移しました。

 リスクとしては、中国等の主要関係国の経済減速、欧米の貿易政策の転換、世界的な一次産品価格の高騰等を挙げています。また、不動産開発業者の金融危機が深まれば、銀行セクターの信用リスクが高まる可能性があると指摘しています。

 政策提言としては、財政健全化を進めつつ、開発に必要な資金を確保するための歳入を増やすことが重要であるとしています。中央銀行(NBC)の金融政策については、引き続き正常化の方向を継続すべきとしています。特に、不動産関係等の不良債権を注意深く監視し、銀行の健全性維持を図る必要があるとしています。中央銀行の規制・監視が十分に浸透していないノンバンク等による不動産向け融資については、監督を強化する必要があると提言しています。

 長期的課題として、成長を確保するために、人的資本を育成し、海外直接投資を誘致する必要があるとしています。そのためにも、物流等のハードインフラとデジタルインフラの拡充を促進すべきと提言しています。

【筆者:鈴木博】

1959年東京生まれ。東京大学経済学部卒。82年から、政府系金融機関の海外経済協力基金(OECF)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などで、政府開発援助(円借款)業務に長年携わる。2007年からカンボジア経済財政省・上席顧問エコノミスト。09年カンボジア政府よりサハメトレイ勲章受章。10年よりカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストとして、カンボジアと日本企業のWin-Winを目指して経済調査、情報提供など行っている。

◎当該記事は外部執筆者により作成されたものです。記事は執筆者が信頼できると判断したデータなどにより作成いたしましたが、その正確性などについて保証するものではありません。

提供:ウエルスアドバイザー社

関連記事

マーケット情報

▲ページTOPへ