海外株式見通し=米国、香港
【米国株】割高感への警戒強まる
8月の雇用統計発表の翌週になって、米国株式相場失速の懸念が市場に広がり始めた。
ゴールドマン・サックス・グループは「高いバリュエーションが市場の脆弱(ぜいじゃく)性を高めている」「大きなネガティブサプライズが発生した場合、市場に緩衝材がほとんど残っていない」と指摘。シティグループのストラテジストは、S&P500株価指数のポジションにおけるロングがショートの10倍に近い超強気状態となっている現状から、小幅な調整でもロングポジションの強制的解消によって損失が増幅される恐れがあると警告した。
モルガン・スタンレーは9月7日、10月末までに経済成長に「特大のリスク」があることを理由に挙げて米国株の投資判断を「アンダーウエート」に、世界株式を「イコールウエート」にそれぞれ引き下げた。
既にアフガニスタン駐留米軍撤退の進め方への批判を受けてバイデン大統領の支持率が急落する中、サプライチェーン圧迫に伴う高インフレが当面続く公算が高いとみられ、FRB(米連邦準備制度理事会)によるテーパリング(量的緩和の縮小)が年内に開始される可能性が高い。また、米連邦債務上限問題をめぐっては、イエレン財務長官が「10月にも政府資金が枯渇する可能性が高い」と繰り返し警告している。
株式市場のバリュエーションについては、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が重視するとされ、ブルームバーグによると株式の時価総額を名目GDP(国内総生産)で割ってパーセント表示にした「バフェット指数」が9月3日に史上最高の229%に達した。同指数は一般に100%を上回るか下回るかで株価の割高・割安を解釈し、割高感が否定できない。なお、日本のバフェット指数は9月10日で123%にとどまる。「高いバリュエーションが市場の脆弱性を高めている」という指摘は的を射ている面もあり、日本株など割安市場への資金をシフトする投資家が続出するのも不思議ではない。
【香港株】環境関連~EVのBYDと太陽光発電の信義光能
ハンセン指数構成銘柄のうち、CO2(二酸化炭素)排出量削減の潮流を受けてEV(電気自動車)の比亜迪(BYD)とソーラーガラスの信義光能(シンイーソーラー)は足元の株価が堅調に推移している。
BYDの今年1~6月決算は、EVを中心とする新エネルギー領域の販売が急増して大幅増収だったものの、売上構成比が上昇したスマートフォン関連事業は電池の原料となるレアメタル(希少金属)の値上がりの影響を受けて粗利率が低下した。自動車分野でも鋼材価格が上昇しており、今後は粗利率の悪化に歯止めが掛かるかどうかが注目されよう。
一方、半導体不足を受けて競合の自動車メーカーが販売台数を減らすなかで8月の新車販売台数は前年同月比86%増、前月比でも19%増と好調を維持した。1~6月の売上構成比の8.8%を占める2次充電電池と太陽光発電に係る車載バッテリーの外販は利益率も高いとみられ、成長への貢献が期待される。
シンイーソーラーの今年1~6月決算は、太陽光発電のソーラーガラスの販売量増加に加え、平均販売価格の上昇により売上高が前年同期比75%増、純利益が同約2.2倍に急拡大した。ただ、4~6月には懸念材料が見え始めた。太陽光発電の導入コストは、昨年まで継続的な生産技術の革新によって低下してきたが、サプライチェーンの混乱に伴う出荷遅延や輸送の不確実性により、原材料のポリシリコンなどソーラーモジュールの価格が高騰。導入コストの上昇が中国では太陽光発電の開発ペースの鈍化につながっている。外国からも生産拠点を中国に集中させるリスクが意識され始めた。
こうした逆風に対して、同社は売上高営業費用率を前年同期比で横ばいとするなどコスト管理の強化で対応している。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
(写真:123RF)
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