<年末年始特集>20年は“CBDC元年”になるか―リブラVSデジタル人民元(2)
2019/12/27 18:35
<仮想通貨市場とリブラへの懸念>
仮想通貨市場は代表格とされるビットコインの乱高下によって投資家の関心を呼び、急成長した。現在も一番人気はビットコインだが、肝心の送金時間がアルトコイン(ビットコインを除く暗号資産の総称)より大きく劣るため、送金手段など本来の目的で利用するには先行者として保有者が多いという点以外にメリットは乏しい。したがって、ビットコインよりも情報量を細かく指定できるイーサリアム(ETH)や、送金手段としての用途を全面に押し出しているうえ発行元がはっきりしているXRP(XRP)などはビットコインよりも後発だが一定のシェアを持ち、ビットコインと並んで主要な仮想通貨のひとつに数えられるほどに成長している。ただ、市場全体の時価総額は30兆円程度だ。
この状況下で、時価総額50兆円規模のフェイスブックが計画する「リブラ」が市場に投入されれば、仮想通貨市場の勢力図を大きく塗り替える可能性がある。何しろ「フェイスブック」は約24憶人のユーザー数を誇る世界最大のソーシャル・ネットワーク・サービス。世界人口の3分の1が共通して使う通貨「リブラ」が誕生すれば、基軸通貨である「米ドル」を脅かす可能性すら高まる。ただ、現在の仮想通貨市場ですら流出事件を引き起こし、問題となってきた。フェイスブックが巨大な力を手にする可能性がある一方、それを処理できる能力を構築できるかも未知数。仮にシステム上に不備があれば、リーマン・ショックの比ではない金融システム不安が高まる恐れがある。米国の議会や金融当局が懸念を表明したのには、こうした背景もあるようだ。
では、なぜ中国はCBDCの発行に積極的な姿勢を示しているのかといえば、通貨(人民元)の国際化が目的といわれる。国際通貨とは、いつでも容易に「金」と交換可能な通貨とされ、明確な基準は存在しないが、現在は「米ドル」「ユーロ」「日本円」「英ポンド」「スイス・フラン」がそう呼称されている。
国際通貨はその名の通り自国以外でも需要があるため非国際通貨よりも通貨発行益が得られるほか、為替リスクとコストを抑えられる。また、国際社会において自国通貨での資金調達が可能になる。中国の場合、最大の障害である資本規制がネックとなっているが、最近では金融政策の独立化、人民元の変動相場制への移行、金利の自由化などに取り組んでいる。そして、国際化にもうひとつ重要なのが、使われる地域の拡大だ。そこで、習近平国家主席は中国-欧州間の貿易や賃金の往来を促進するものとして掲げる「一帯一路」構想で使われる通貨をCBDCとしたい考えのようだ。
一帯一路は中国と欧州の人口を合わせただけで20憶人規模となる。これが「デジタル人民元」を利用することになれば、通貨の勢力図は大きく変わる。もちろん、欧州が簡単にデジタル人民元を利用するとは考えにくいが、各国ともデジタル通貨の開発では中国に先行を許しているかたちであり、中国と経済的なつながりの強い国からデジタル人民元の包囲網が広がっていく可能性は高い。
<日本はキャッシュレス化のアレルギー克服へ>
国内に目を向けてみる。日本銀行では、すでにデジタル化されている当座預金の債務について、何かしらの形で利便性を高められないか検討している。また、ECB(欧州中央銀行)と共同でブロックチェーン技術に関する調査も実施している。とはいえ、CBDCとなると国の中央銀行と同様、発行に前向きとは言えない。
そもそも、日本の場合はキャッシュレス化が遅れているといわれて久しく、日銀や政府ばかりを責めることもできない。経済産業省によれば、16年の民間消費支出に占めるキャッシュレス決済額は20%程度という。海外では、隣国の中国が55%、韓国が54%と、いずれも日本を大きく上回る。少し前まではこうした国々よりも日本は治安が良いとか、紙幣製造の高度な偽造防止技術を持つことなどが評価されてきたが、キャッシュレス化によるコスト低減などを考慮すれば、果たして現金主義がそこまで優位ともいえない時代だ。
ただ、近年では日本のキャッシュレス化も進みつつある。16年のキャッシュレス決済額のなかでもっとも大きい比率はクレジットカードだが、直近では電子マネーの利用率が急速に伸びている。また、消費税引き上げに伴う政府の還元キャンペーンもあってQRコードでの決済も増え、現金を使わないで物を売り買いすることに対する抵抗も薄れている。
国際通貨のなかでも日本円は「安全資産」といわれるほどのポジションにあるが、世界2位の経済大国である中国がCBDCの開発に本腰を入れてきた今、いつか国際通貨のポジションを奪われる恐れもある。官民ともに協力してキャッシュレス化を進めていくことが必要だ。
提供:モーニングスター社
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