海外株式見通し=米国、香港
【米国株】「防衛テック」に注目
米英豪の3カ国は9月15日、インド太平洋の安定に向けた新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」の設置で合意した。第1弾として、中国を念頭に抑止力を強化するため米英が豪州の原子力潜水艦の配備を支援するという。豪政府はフランスと合意していた次期潜水艦の開発計画を白紙にした。戦闘システムや魚雷などの武器類について受注を狙っていたとみられる防衛世界最大手のロッキード・マーチン<LMT>と米大手のレイセオン・テクノロジーズ<RTX>などは、米政府が潜水艦の本体ごと受注することで事業機会が拡大しよう。
米日豪印の4カ国首脳も9月24日に、初の対面会議を米ホワイトハウスで開催。米バイデン政権は「AUKUS」と「クアッド」の重層的な多国間協力を通じて中国に対抗する戦略だ。インドは半導体や太陽光パネルなどの調達を中国からの輸入に頼っており、中国依存の経済構造の転換を模索する中、米半導体大手のクアルコム<QCOM>や太陽光発電大手ファースト・ソーラー<FSLR>などの米企業がインドのモディ首相と会談したと報じられた。
また、米国防総省は「NSIC(National Security Innovation Capital)」という「防衛テック」向けのベンチャー投資スキームを開始しており、AI(人工知能)やビッグデータ、量子コンピューターなどの分野でスタートアップによるイノベーションを促進して軍事利用を図る方針を打ち出している。
そのような中で、昨年9月に上場したパランティア・テクノロジーズ<PLTR>はテロ活動やスパイ活動を検知するビッグデータ解析ツールを擁し、9月24時点の時価総額が557億ドルに達している。ほかにもAIとドローン(小型無人飛行機)を活用した監視・防衛システムを開発した企業など、防衛テック関連の有望な上場予備軍が控えており、注目されよう。
【香港株】産業規制の嵐の中で優遇されるスポーツ産業
中国政府は今年7月、大量の宿題と塾通いが子どもと保護者の負担になっていることを問題視して教育産業の規制を公表したほか、ゲームが子どもたちの身体と精神の健康に悪影響を及ぼしているとの心配が広がっているとして、8月に18歳未満を対象としてオンラインゲームを1週間で計3時間までに制限する新ルールを導入した。
その一方、8月に中国国務院が「国民健身計画」と「全国民運動計画(2021~25年)」を発表するなど、身体の健康を重視する姿勢を打ち出している。国民健身計画は、トレーニングができる公共施設の地域格差を是正して国民の健康水準を引き上げ、フィットネスへの満足度を高めることを主な目的とする。全国民運動計画は、25年までにスポーツ・トレーニングに参加する人が38%を超え、全国のスポーツ産業の総規模を5兆元(約85兆円)に引き上げることを打ち出した。
そのような中国政府による政策の転換を受けて、中国スポーツブランドの李寧[リーニン](2331/HK)、安踏体育用品[アンタ・スポーツ・プロダクツ](2020/HK)などが21年上期(1~6月)に大幅な増収増益を達成。同名の五輪体操金メダリストを創業者とする李寧は、売上高が前年同期比65%増、純利益が同187%増。安踏は、売上高が同56%増、純利益が同132%増に拡大した。安踏はEC(=Eコマース、電子商取引)が売上構成比27%を占めた。また、両社ともR&D(研究開発)強化により機能やデザインに磨きをかけてブランド求心力を高めている。
米ナイキ<NKE>や独アディダスなど欧米ブランドが人気の主流を占めていた中国で両社ブランドの躍進が注目を集めた背景には、「新疆綿花問題」の発生により新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと表明した外資系ブランドに対して中国国内で批判や不買運動が巻き起こったことも挙げられるだろう。
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(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
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