米大統領選のテーマにもなったグリーン・ディール、環境ファンドは15年来の低迷を打破できるか?

投信

2020/10/26 16:26

 いよいよ来週(11月3日)に迫った米国大統領選挙において、民主党のジョー・バイデン候補が優位と伝えられているが、選挙の結果ばかりはふたを開けてみないとわからない。ただ、今回の大統領選挙は、米国の環境政策について重要な対立点があり、その結果次第では、世界の株式市場の動向にも変化が表れると注目されている。近年は、世界の機関投資家の間で「ESG(環境・社会・企業統治)投資」への関心が高まっているが、環境問題はESG投資の中でも、大きなウエイトを占める分野。この投資への影響は、既に個別ファンドのパフォーマンスにも見て取れる。「バイデン優勢」で動き始めた「グリーン投資」の動きが定着するかどうかが注目される。

 バイデン候補の環境政策は、トランプ大統領との違いが際立っている。トランプ政権下で離脱を表明した「パリ協定」(地球温暖化対策の国際的な枠組み)について、バイデン氏は「大統領就任式の直後に復帰する」と明言している。しかも、「バイデン計画」と名付けた米国の気候変動対策を経済再生の重要な政策に位置付け、「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロをめざす」ため、4年間で2兆ドル(約210兆円)の大型投資を表明。特に、発電所については2035年までに二酸化炭素の排出量をゼロとする他、電気自動車の生産・購入を後押しするための税制優遇や50万カ所の充電スタンドの設置など、電気自動車関連で100万人の新規雇用を創出するとしている。

 このようなバイデン氏の主要な政策を手掛かりに、大統領選挙戦において「バイデン優位」との情報が伝えられると、いわゆる「環境関連ファンド」のパフォーマンスが向上している。たとえば、ドイチェ・アセット・マネジメントの「DWS新資源テクノロジー・ファンド(愛称:グローバル・シフト)」は、グローバルな需要のシフトに対応する3つのテーマ(生活基盤/食糧/クリーン・エネルギー)に関連する世界の企業に投資するファンドだが、2020年9月末基準で過去6カ月間に基準価額が42.6%上昇し、同期間のモーニングスターカテゴリー(国際株式・グローバル・含む日本、為替ヘッジなし)平均27.03%上昇を大きく上回っている。

 同ファンドの3つのテーマは、ESG投資でもテーマのひとつとして意識されるSDGs(持続可能な開発目標)にもつながるが、ファンドを運用するドイチェ・アセットは、「世界の気候変動対策、および、グリーン・リカバリーへの取り組みがファンドのパフォーマンスを後押ししている」とみている。実際に、ファンドでは9月末時点のポートフォリオの構成比率では「クリーン・エネルギー」関連を41.5%と高位に引き上げ、この関連銘柄の株価が堅調なことを報告している。

 世界各国の気候変動対策では、欧州がEU域内で2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにする「欧州グリーン・ディール」を最優先政策とし取り組む計画を2019年12月に発表し、中国でも2020年9月に習近平国家主席が国連総会の一般討論で「2060年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素CO2の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロ)をめざす」と表明した。そして、日本も10月26日に所信表明演説を行った菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。これで、アメリカでバイデン大統領が当選すれば、先進国は足並みをそろえて「2050年カーボンニュートラル」をめざして動き出すことになる。

 この環境関連のテーマは、大きな長期的なテーマと捉えられながらも、その投資パフォーマンスは良い結果とは言えなかった。ドイチェ・アセットの「グローバル・シフト」も2007年8月の設定からこれまでのパフォーマンスは、カテゴリー平均に対して大きく劣後している。これは、リーマンショック直前の太陽光発電ブームを受けて太陽光パネルが過剰生産され、リーマンショック後の景気低迷期に関連企業の業績が大幅な悪化を余儀なくされたことなどによる。

 今回巡ってきたチャンスは、この後も、環境関連ファンドの追い風となり得るだろうか? 少なくとも、世の中に広がりつつある「ESG投資」の流れは止まることは考えにくく、環境関連は、その大きな流れに乗っていることは事実だ。しかも、コロナショック後に大きく浮上したデジタルトランスフォーメーション(DX)関連が、余りにも短期的に値上がりし過ぎたといわれている中、「その次の投資対象」として出遅れ感の強い環境関連には資金が向かいやすいという見方もある。米国大統領選挙を前に、にわかに注目度が増しているグリーン・エネルギー関連の行方に注目したい。

提供:モーニングスター社

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