海外株式見通し=米国、香港
米国株:仮想通貨への警戒でディフェンシブ銘柄に注目
米調査会社リフィニティブによれば、5月4日時点でS&P500構成企業の1~3月期の利益は平均で前年同期比47.7%増となる見込みであり、4月上旬時点の同24%増から大幅に上方修正。業績の伸びはグロース(成長)株投資を優位にさせる要因とみられがちだが、企業業績の急激な回復を受けて、5月3日発表の4月のISM製造業景況指数における「価格指数」が89.6、5月5日発表の4月のISM非製造業景況指数における「仕入価格指数」が76.8と、いずれも2008年7月以来の高水準に達した。
08年7月はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格が1バレル=147ドル台の史上最高値を付けた月である。それに対し、現在はLME(ロンドン金属取引所)銅先物価格が10年3カ月ぶりに1万ドルを超える高値水準に達し、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)木材先物価格の5月10日終値が昨年3月末終値の約5.7倍に急騰。半導体や化学製品の素材メーカー、非鉄・貴金属の生産会社、海運や陸運などの物流企業を除けば、幅広い業種の企業に係る生産・仕入れコスト上昇の悪影響を注視すべき局面にシフトしつつあると思われる。
また、18年2月以降の「VIX(恐怖指数)・ショック」は米長期金利上昇が引き金となったが、その前の17年12月に暗号資産(仮想通貨)のビットコインが米ドル建てで一時2万ドルを超える水準まで高騰後に急落した。ビットコインのマイニング(採掘)報酬半減期が約4年に1回到来することで新規発行量が半減することは、供給減に伴う価格高騰とその後の急落を生みやすい面がある。ビットコイン価格の短期的なピークは、12年11月の半減期から約1年後、および16年7月の半減期から約1年5カ月後に到来した。今年5月は3回目の半減期から1年後となる。仮想通貨市場の急拡大に伴い、急落の際の株式市場への影響も甚大にならざるを得ないだろう。ペプシコ<PEP>やP&G<PG>のような連続増配中のディフェンシブ銘柄が注目されよう。
(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)
※右の画像クリックでグラフ拡大
香港株:科創版市場にとってIPO厳格化は好材料
4月16日、中国証券監督管理委員会(証監会)が「科学技術革新の属性評価に関するガイドライン」を発表したのに続き、上海取引所が「科創板における企業のIPO申請及び推薦に係る暫定規定」を公表。新興企業向けの科創板(STAR市場)へのIPO(新規上場)審査をクリアするには、本業が技術関連業務であることが必須条件となった。一方で、不動産やフィンテック(金融のIT化)など、ハード技術関連業務を本業としない新興企業は事実上、科創板から閉ざされることになった。
21年1~3月期に科創板でIPOを果たした36社を業種別でみると、新世代ITが11社、バイオ9社、ハイエンド設備5社、新材料4社と続く。注目されるのは、香港市場で上場しているバイオテック銘柄から科創板へのセカンダリー(重複)上場申請が相次いでいることだ。20年7月、君実生物が科創板へセカンダリー上場を果たしたのを皮切りに、百済神州もIPO目論見書を上海取引所に届け出たと伝えられた。栄昌生物、諾誠健華などのバイオテック企業も科創板へのIPOを会社決議した。
20年の年間上昇率では、科創板に代表されるSTAR50指数が39%に達した。ハンセンテック指数の55%には及ばなかったが、上海総合指数の14%、深セン総合指数の19%、CSI300指数の27%を上回った。科創板の平均PER(株価収益率)は、19年7月の開始当初が70倍前後だったが、創設1年後の20年7月ごろには150倍前後に上昇。足元では80倍前後で推移している。調査会社Windによると、好業績見通しを受けて、科創板の平均予想PERは、21年が48倍、22年が35倍と、割高感が薄れる見通しだ。証監会によるIPO規定変更を契機として投機色が薄まることで、科創板は海外投資家からもハイテク・バイオを中心とした成長株投資の市場として認められるようになると思われる。
(フィリップ証券リサーチ部・李一承)
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