アナリストの視点:ETFの普及とともに欧州でもじわり高まるパッシブ人気、となりの芝生が青く見えるのは世界共通か?

視点

2021/6/11 16:53

欧州では米国から11年、日本から8年遅れでパッシブ比率が2割越え

 日米に比べると、アクティブファンドの人気が根強かった欧州でも、パッシブファンドに資金が集まる傾向がみえはじめている。モーニングスターの調べでは、ETFを含めた欧州籍ファンドは2021年4月末時点における純資産総額が11.2兆ユーロ(1,479兆円)と、金額ベースでは過去最高となり、全体の占めるパッシブファンドの比率も20.8%と、同じく過去最高となった。その欧州で、パッシブファンドの比率が初めて2割を超えたのは2020年8月で、米国の2009年2月、日本の2013年9月と比較してもかなり遅かった。日本では、日銀によるETFの購入がパッシブファンドの比率を大きく高めたといった特殊事情はあったものの、初めて購入が実施されたのは2010年12月、年間で数兆円単位の購入となったのは2013年以降であり、それ以前の時期を含めてもパッシブファンドの比率で欧州が日本を上回ったことは一度もなかった。(図表1参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。

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 アクティブファンド重視の傾向が強かった欧州で、緩やかながらもパッシブファンドの比率が上昇傾向にあるのは、ETFに資金が集まりはじめた影響が大きい。年間の純資金流出入額の推移では、アクティブファンドは2017年に5,796億ユーロの流入超過となったのをピークとして、それ以降は2,000億円台で頭打ちになっているのに対し、ETFは2019年に1,021億ユーロの流入超過と、初めて大台を上回り、2020年も954億ユーロの流入超過、2021年も4月末までですでに577億ユーロの流入超過と、継続的に資金を集めている(図表2参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。また、ETFは純資産額ベースの株式ファンドの比率が2021年4月末時点では7割弱と、ETF以外のファンドの5割弱と比べて高く、世界的な株高を受けた値上がり益の増加もパッシブファンド比率の上昇に寄与した。

欧州株離れが目立つ欧州籍ファンド、米国では米国株が、日本では日本株が流出傾向

 一方で、欧州籍ファンドの純資金流出入額をカテゴリー別でみると、「欧州株離れ」が目立つ。2021年4月末までの過去3年間では、流入超過額ランキングでは第1位の「グローバル大型株」が2,785億ユーロとなる一方で、流出超過額ランキングの第1位は「欧州大型株」の1,017億ユーロ、第3位は「欧州中小型株」の275億ユーロとなっている(図表3参照=画像クリックで拡大画像にジャンプ)。もちろん、グローバル株式にも欧州は含まれているが、例えば代表的な株価指数の一つであるMSCIワールドの構成比率をみると、2021年4月末時点では米国、カナダ、日本の3カ国の合計だけで8割弱を占める。

 同期間では、米国ではグローバル株式ファンドが351億米ドルの流入超過となる一方で、米国株ファンドが1,777億米ドルの流出超過となった。また、日本ではグローバル株式ファンドが8.2兆円、日本株ファンドが13.4兆円のいずれも流入超過となったが、日本株ファンドはETFを除くと2.3兆円の流出超過となっていた。このような傾向は、世界的にパッシブファンドの比率が高まる中で、自国の株式市場に過度に依存しない分散投資が進んだ結果という見方もできるが、心理的にも「となりの芝生は青く見える」ということも影響している可能性がある。つまり、各国・地域によって経済成長率や政治状況などは様々で、どこをとっても他より優れている国や地域などはないが、とかくプラス面でもマイナス面でも多くの情報が手に入りやすい自国よりも、情報が少なく、偏りやすい他国の方がうまくいっているように感じる、将来が明るく見えるような気がする、というのは世界共通なのかもしれない。

(吉田 誠)

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