海外株式見通し=米国、香港

【米国株】生成AIは「GAFA」に続くけん引役に

 足元の米国株市場を取り巻く環境で注目するべきことは、第1に昨年11月に公開されてから急速に普及している「ChatGPT」のような、生成AI(人工知能)ツールと関連する事業機会が今後どこまで株式市場を席巻するのかという楽観的期待。

 第2に、半導体供給不足といったサプライチェーン問題がほぼ解消したことから、自動車や産業機械など製造業は粗利益率の悪化に歯止めが掛かりつつ生産回復による売上増加が見られ始めた点だ。受注動向次第の面はあるものの、製造業の企業業績が増収増益になりやすくなったと言える。

 このような投資の好機が徐々に姿を現し始めている中で、3つの不安要因が米国株市場に立ちはだかっている。最たるものが、米国政府の債務上限問題に伴う米債のデフォルト(債務不履行)不安である。また、地銀の経営不安が収まらないことや、FRB(米連邦準備制度理事会)関係者の多くが金融引締め継続のタカ派スタンスを強調する一方で、パウエル議長が緩やかなハト派姿勢を示すなど、金融政策の不確実性が高まっている点も気掛かりだ。である。これらが「好機=お宝」を覆う濃い霧となって見通しを悪くしている。

 過去を振り返れば、Windows(ウインドウズ)95が発売された1995年を起点として2000年3月までのIT(ドットコム)バブルへと繋がる「インターネット革命」がぼっ興。ITバブル崩壊からリーマン・ショックを経て主要米株価指数は09年3月に底を打って反転した。その前の04年2月に旧フェイスブックの「Facebook」がサービスを開始し、07年6月にアップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」が発売された。

 それらはGoogle(グーグル)検索、Eコマース(電子商取引)のAmazon.comとともに「GAFA」と呼ばれ、ユーザーデータを取得して分析し、新たな付加価値を生み出す「データ経済」の覇者として最近まで株式市場をけん引してきた。そして生成AIの普及は、インターネット革命、データ経済に匹敵する新たなテクノロジー時代の幕分けとみるべきものだろう。

【香港株】業種で明暗、中国主要テクノロジー企業

 中国の主要なテクノロジー企業の23年1~3月決算が発表された。

 11日発表のEコマース大手JDドットコムは、純損益がコスト削減を受けて黒字転換したものの、売上高は14年の上場来で最低の伸びとなった。中国政府によるゼロコロナ政策が終了して個人消費は回復基調にあるが、ネット通販などリテール事業が外食や旅行などサービス消費と比べて苦戦した。

 16日発表のインターネット検索大手のバイドゥは、売上高が前年同期比10%増となり、やはり純損益が黒字に浮上した。広告収入が中心のオンラインマーケティング事業が同6%増収と回復。同社に対しては、精緻な文章や画像などを作り出す生成AIの「文心一言(アーニーボット)」への期待が高まっている。

 17日発表のネットサービス大手テンセントは、売上高が同11%増、純利益が同10%増と堅調。ゼロコロナ政策で落ち込んだ広告事業が同17%増収、ゲーム事業が海外向けの伸び同11%増に拡大した。

 18日発表のアリババは、売上高が前年同期比2%増と市場予想を下回った。決算と同時に物流のチャイニャオ(菜鳥)と食料品店チェーンのフーマー(盒馬)のIPO(新規上場)を模索することを明らかにし、また、クラウドサービス部門をスピンオフして既存株主に株式を分配する計画を正式に承認するとした。越境Eコマースのシンガポール本拠のラザダを統括するグローバル電子商取引部門についても、外部から資金調達を計画するなど事業再編が具体化してきた。

 上に挙げた4社の年初来の株価動向を見ると、バイドゥやテンセントといったネット広告を中心としたIT企業のほうが、個人消費に左右されやすいアリババやJDドットコムといったEコマース関連の企業を上回っている。個人消費の戻りが鈍いだけでなく、ピンドゥオドゥオ(PDD)などEコマースにおける同業他社との競争激化による利益率悪化も株価が伸び悩む要因となっている。

※右の画像クリックでグラフ拡大

(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)

(写真:123RF)

関連記事

マーケット情報

▲ページTOPへ