海外株式見通し=米国、香港

【米国株】ナスダック指数の戻りメドは?

 FRB(米連邦準備制度理事会)では、パウエル議長をはじめ次回FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ停止を示唆する発言が相次いだ。2日発表の5月の雇用統計は非農業部門雇用者数が強かったものの失業率が前月比0.3ポイント上昇し、平均時給の伸びも鈍化するなど、利上げ停止示唆を正当化し得る内容だった。

 さらに、米連邦政府の債務上限効力を2025年1月まで停止する「財政責任法」が成立して米国債デフォルト(債務不履行)が回避された。ナスダック総合指数は、2021年11月高値の1万6212ポイントから22年10月安値1万0088ポイントまでの下落幅の半値戻し(1万3150ポイント)を達成。VIX指数(恐怖指数)はコロナ禍直前の20年2月以来の低さとなった。

 市場の不安を反映するVIX指数。20年安値は1月の11.75だ。相場は行き過ぎるものとしてその反動をあらかじめ想定すべきならば、同指数の反転上昇の兆しに留意しつつ、ナスダックの下落幅に対して「フィボナッチ比率」の0.618倍戻し(1万3872ポイント)がメドの1つとして挙げられる。

 1998年にロシア危機や大手ヘッジファンド(LTCM)破たんに伴う金融システム不安対応でFRBが3度の利下げを行ったことがその後の「ドットコム・バブル」につながったのと同様に、FRBが銀行預金流出と金融システム不安を恐れて利上げを躊躇(ちゅうちょ)するならば、現在の「生成AI(人工知能)」のブームが過熱する可能性も現実味を帯びてくる。

 生成AIは、データを集めて学習させることでパラメーター調整を行いソフトウエアを構築する「機械学習」、多数のニューラル(神経)ネットワークを用いた機械学習の「深層学習」、人間が日常使う自然言語をコンピューターに処理させる「自然言語技術」などを伴う。クラウドのデータセンター上での処理が中心となるが、顧客端末に近い側でデータを処理する「エッジ・コンピューティング」も重要性が高まりそうだ。

 クラウドを複数利用する「マルチクラウド」、さらにクラウドと物理サーバー(オンプレミス)を統合して利用する「ハイブリッド・クラウド」の価値も高まることが想定される。

【香港株】「中国製造2025」と航空機、手術ロボット

 15年5月に発表された「中国製造2025」とは、25年までに「製造強国への仲間入り」を果たし、35年までの「世界の製造強国の中等レベルへの到達」を経て、中国建国100周年に当たる49年には「製造強国トップ」となることを目指した産業政策である。その重点戦略の中に、「重点分野における飛躍的発展の実現」という項目があり、ハイテク製造業10分野に対して具体的な数値目標を設けた。

 重点10分野の中の「航空・宇宙関連」に関し、中国初の国産中型ジェット旅客機「C919」が5月28日、上海と北京を結ぶ便で商用旅行を開始した。開発したのは国有系航空機メーカーの中国商用飛機(COMAC)だ。

 中国は商用航空機の引き渡しで世界の約2割を占めるとされている。中国航空科技工業(アビチャイナ・インダストリー・アンド・テクノロジー)のような航空機用機器・部品を扱うメーカーへの恩恵も期待される。また、中国商用飛機が開発したリージョナル機「ARJ21」も、4月にインドネシアで海外初の商業飛行を実施した。運航したトランスヌサ航空は中国の航空機リース大手の中国飛機租賃集団(CALC)が共同支配株主だ。

 「バイオ医薬・高性能医療機械」も10分野の1つ。これに関し、医療消耗品大手の山東威高集団医用高分子製品(ウェイガオ・グループ)は21年に国内企業として初めて中国保健当局から腹腔鏡手術支援ロボットの医療機器製品認可を取得した。

 ウェイガオは、世界の手術ロボット市場を寡占する米インテュイティブ・サージカルの「ダビンチ」に挑む構えだ。同社の製品は3D(3次元)眼鏡を掛けて操作することで医師の疲労が少なく、5G通信を使った遠距離手術での優位性や販売価格の安さでも強みがあるという。株価は部品の海外依存度が大きいC919の関連株よりも、国産医療ロボットの方が高く評価されているように見受けられる。

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(フィリップ証券リサーチ部・笹木和弘)

(写真:123RF)

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